2024年09月29日

「あめつち工場カランコロン」とは何か。(照明・空間編)

あっという間に終幕から約2週間。現在絶賛稽古中の自ユニットCriticalCreationの宣伝を兼ねて?!彗星カランコロンを振り返ります。

彗星マジック28景
「あめつち工場カランコロン」
2024年9/13(金)〜9/16(月祝)
at:インディペンデントシアター2nd


彗星マジックでは「プロデューサー」という名の何でも屋と化していますが、今回はプロデューサー・照明・空間デザインで最終クレジットされています。
ので、主にその観点から振り返ろうと思うのですが、まずは作品のスタートから。

今回の創作に関しては、勝山が彗星マジック文藝部で既に書いていますが、補足と訂正を。ちなみに彗星のnoteは劇団員がそれぞれの趣味や観点から色々なテーマでエッセイを書いているので、是非メンバー登録してご覧ください!
WS公演Gift「アルバート、はなして」が終わって直ぐに次回本公演の企画ミーティングとなりました。noteにあるように勝山が「詩と再生」の再演を提案したのですが却下しました。理由としては直近が再演で、その前が新劇団員お披露目の短編集。そのうち1作品が再演。2023年の「釈迦を汲む」から1年半ぶりの本公演なのに、そこも再演というのは流石にいかがなものかと。個人的には良作をブラッシュアップしての再演には賛成で「詩と再生」も充分候補ですが、今じゃない!
それに新劇団員がガッツリ長編で自分が初めて生み出す役に取り組む経験を積んでもらうことが今後の彗星の為に必要とも思ったので「新作!」
そうなると、じゃぁどんな方向?と迷う勝山に提案したのが、「詩と再生」みたいに会話劇ベースで進むややハードな物語と「ヒーロー」みたいに設定とうんちくがみっちり詰まっているけど、それを勢いとハートで突き抜けるエンタメのハイブリッド。まぁ我ながら言うは易しですな。
ちなみに、アイウチはずっと次回公演会議では「ヒーロー続編」を推してます。旧2ndでの長編版でも物語に決着がついた訳ではなく、上の世代が終わらせられなかった物語を次世代の特別任務官たちが閉めるストーリーなんて、今の彗星の状況とも相まって良いんじゃないかなぁ。
公演アンケートの再演・続編希望や好きな作品にも、結構「ヒーロー」が上がっているので、皆さんのもうワンプッシュがあれば、勝山も重い腰を上げるかもww
で、「詩と再生」+「ヒーロー」の提案から勝山がひねり出したのが「宇宙にある工場」の話でした。実は「アソートメント・アパートメント」で「ヒーロー」系列の「サーキュラー・ヴェロシティ・アパートメント」をやっているのですが、その時に「やっぱSF要素面白い」という勝山の発言に、「次回作はSFの可能性あるな…」と思い、後ほど語る「ラダートラス」の発注を先んじて検討していたのでした。
さて、大枠は決まりましたが具体的に執筆に入る為に、最近の彗星マジックでは劇団ミーティングでアイディア出しをしています。この辺は勝山のnoteが詳しいのでそちらをご覧頂くとして、アイディア出しで僕が出したものに、工場では宇宙(無重力下)で不足するミネラルを補助するための食品・サプリのようなものを作っているが、工員は誰もその原材料を知らない。実は原材料は異星人or人造人間で…。というえげつないプロットがありました。人造人間だけ「生体人形」に活かされたのかな?

さて、続いては空間デザインに関してです。所謂舞台美術的な部分ですが、この作品の為に何かを造ったりしている訳では無く、舞台やエリアの活用案や俳優導線の必要性からデザインしているので、「空間デザイン」が一番しっくりくるかなと。
ちなみに、細かいくぼみや段差があったりとなかなか複雑な構造ですが、イントレ含め全て2ndの平台や箱馬など劇場備品のみで組み上げられています。唯一ラダートラスが僕の個人資材ですが、これも在りもので作ったわけでは無いので。
クレジットしたのは今回初めてですが、彗星では舞台監督も兼ねているので、脚本が上がって稽古が始まり、デハケなどが見えて来た段階で舞台図面を起こす役割をしてきました。役割の方向性が変わったのが、「ラルカノウッド」かな?新2nd初の公演で、袖を作らず俳優がはけない(アクティングエリア外に待機する)形にしたい。舞台美術的に黒い紐を柱や木に見立てる演出がしたい。という勝山のオーダーに4間×4間の浮島舞台を設定しました。これが勝山の演出手法にしっくりきたのか、以降彗星作品ではこのスタイルが定着します。

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そもそも、以前から舞台美術的な物体や小道具は最小限で、俳優の演技と照明音響効果で空間を生み出していくのが彗星作品の基本スタイルだったので、いずれ袖が無くなるのも必然だったかもしれません。
で、次の本公演が「釈迦を汲む」な訳ですが、こちらがなかなか難産で、進行ペース的に脚本や稽古の進んだ後に図面を引くのではもう間に合わなそう…。という事で「先に舞台図をでっち上げてしまおう!何やったら、どうせ同じ人間が図面引くんだから照明プランと連動させちゃおう!」という事で、先に舞台図を提案したのです。ロードムービー的な旅する移動の多い芝居だと聞いているので、外周を一段高く道にしてぐるぐる回れる構造で、前回を踏襲し袖無し。柱や木の見立てを今回は照明でやる。ついてはフロアにも照明をかなり仕込むのでそのためのくぼみがあり、それも芝居に利用してみては?という提案でした。

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「釈迦を汲む」をご覧頂いた方はおわかりかもですが、外周が街道や山道、廊下、時に高台になり。くぼみに隠れたり。そして色々な建物が出てきますが、照明のビームでその建物の柱や輪郭を表現しました。

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で今回です。もう設定が決まった段階で先に舞台図を書いてしまおう。むしろそれを脚本執筆のとっかかりにしたり、演出に利用してもらった方が早いのではないか?脚本や演出で変化が発生したら、それに合わせて舞台図の方を後から直したら良いじゃん!が今回の進行プランです。
「宇宙」「工場」「温泉」といったキーワードが決まった時点で、それらを補強できそうな要素で舞台を組んで行きます。イントレはまさに「現場感」が出るし絶対使える。そしてアソアパ後に検討し既に入手していたラダートラスが工場感を増し、照明プランの幅を広げる。前回よりも段差を複雑にすることで、惑星表面の凹凸(この時点では月とは思ってなかった)とか、まぁ何か使えるやろww 彗星では全員が一堂に会するシーンがちょくちょく出てくるので、その時に前回の道幅の高台だと狭いので、後ろの高台は部分的に広くしてやろう。イントレの中段はクレーンとかの操作室に使われそうかな?温泉の湯船のシーンにちょうど内側のくぼんだ部分が使えそうだな。などと出てきそうなシーンを想像して配置しました。
同時に、それに合わせてざっくりの仮照明仕込み図も書いてしまいました。
照明仕込み図は、脚本とシーンが出来てきてそこそこの変更が出ましたが、舞台の構造に関しては、ほぼ初期プランそのままで行けました。

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舞台を組む前にイントレとラダートラスを仕込んだ状態です。小屋入り前週が実寸稽古だったのでバミリで俳優もスタッフも色々把握したりイメージしていました。
今回、工場感・SF感を出す美術としても有効だったラダートラス(ハシゴ状の吊り物装置)。新2ndになってタッパが高くなりましたが、彗星作品ではセットが無く劇場むき出しの使い方なので、縦に空間を埋め切れていない感を感じていました。灯りでそれを補助する努力はして来ましたが、いかんせん上(バトン)と床(フロア)だけでは画つくりが限られる中で、タッパの中間部分にも機材を仕込みたいという照明プランの要請を満たしてくれるのがラダートラスだったのです。
音楽ライブのステージセットなどでは多用されますが、通常の舞台作品だと、存在感があり過ぎたり他の舞台セットとマッチしなくてあまり使われていないのですが、美術の無い彗星作品では有効に使えるのではないかと考え、次回作がSFの可能性ということも相まって手配する事にしました。探し回った結果、希望に合うもの(色が黒の焼付塗装でクランプでバトンに直接吊れる)が国内には無くて中国のメーカーに発注して輸入しました。海外送金とか船便の費用とか、税関の関税手続きとか色々大変でしたが、とても勉強になりましたし、何より希望にピッタリの器具を入手する事が出来ました。

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こういう画が作りたかったんですよね〜 それ以外でも照明機材の吊り点が下がる事によるメリットや画つくりのバリエーションに貢献してくれました。
照明でラダートラス以外に今回もう一つ新しく取り入れてみたのがLEDバー。実は「INDEPENDENT」では舞台ツラの目隠しパネルに装飾として仕込んでいて、客入れやインターバル時の賑やかしに使われていたもの。もっと照明効果として有効に活用できるのではと考えていたので、今回舞台美術のレベルで入れ込みました。お客様からは見えない死角部分にあって「この灯りはどこから出てるの?」そして「照明っぽくない」という効果を狙いました。

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実際この機材は照明卓ではなく、映像(動画)のデータから灯りを生成しています。映像ならではの複雑な揺らぎが、不気味なシーンとかで使えないかなと思って(足元からのアオリになるのもそういう効果を狙えるし)いたのですが、実際には冒頭のオーロラや、方舟から見る地球などに使われました。光量が若干足らず、他の照明効果が活きている時は目立たないのが残念でしたがあからさまじゃない良さもあったかな…。ただ、これ単独だと相当効果を発揮するので、活かせる使いどころを今後探りたいと思います。
ちなみに、カランコロンのリビングではいつもTVが付いていますが(音が鳴ってる)、この時地味に上手側がこのLEDバーでチラチラ(TVの照り返し)しています。
また、客入れの時の浅葉氏の音が素晴らしくて、それに呼応するように客入れでも使っています。床がゆらゆらしているのに気づいたお客様は居るかな?



あとは、カナンの初登場シーンなどで使われた床下からのアオリ照明。正体不明の不気味さや神々しさを狙ったピンポイントの1発です。これは切穴が開いていてそこをアクリルで塞ぐ構造の平台を使っています。2005年の旧2ndでの劇場プロデュースの舞台衣装ファッションショーで同じような効果の為に舞台美術で作ったものです。また使える機会が必ずあると思ってずっと保管し、たまに使っていましたが久しぶりに再活用してみました。アクリルにだいぶ傷が入っているので見えにくいですが、下に照明機材が見えるかと思います。

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で、悩ましかったのがラストの宇宙空間の漆黒のシーンです。それぞれが抱えていたものが噴出する物語上のキー。演出オーダーは足元を見せたくない。わかる!わかるよ!だが難しい。そもそも無重力を舞台上で表現する事が難しい。足元が見えるとどうしても床を意識してしまう。見せない為には絞った水平な灯りしかない。→ズームのあるムービングで狙う。→ただキャストが散り散りで射界が限られるので調整がシビア→キャストと演出で立ち位置を微調整→おおよそ3パートに分かれているが、それぞれのシーンがかなり長いので、照明を当て続けると目が慣れて、見えていなかった足元が見えてきてしまう。→そもそも宇宙空間では光源からの灯りが物体に当たる時しか何も見えない→暗めの灯りでゆっくりの点滅を繰りかえす=ゆっくり全体が回転している事で光源に入ったり出たりするという解釈→概ね目標を達成。
回りくどい説明になりましたが映画「ゼロ・グラビティ」とか「インターステラー」を見た方ならああいう感じねと納得して頂けるかと。
こうして照明のセオリー無視した、明滅で表情や体のシルエットが見えたり見えなかったりする(見えてても暗い)、かなり攻めたシーンができました。特にトリトンが辰のヘルメットを叩き割ろうとするシーンは音響キッカケとも絡んでいて、音響さんには過酷なことでした。ただ、叩くのが見える時と見えなくて音だけで知覚する時があるのは、お客さん側にとってはドキドキする効果があったんじゃないかと思っています。
他にも軌道エレベーターとかローバーの移動とか方舟浮上とか綱引きとかww、あんまりまともな照明さんならやらなそうな灯りの表現をしてみました。「何か変だけど何かイイ」「SF表現の分かりみがする」という感じで作品に貢献できていたら何よりです。

てなわけで、大変長くなりましたが、彗星マジック「あめつち工場カランコロン」を空間と照明の観点から振り返ってみました。
そんなカランコロンに出演した池山ユラリ(彗星マジック)と野倉良太の二人芝居を相内演出で上演します。
カランコロンとはうって変わって、シンプルな会話劇。偶然が重なるちょっと不思議なお話ですが、照明とかほとんど変わりませんww
稽古始まったばかりですが、良い感触を掴んでいるので、こちらも是非ご来場下さい。
10/15(火)の火曜日のゲキジョウに参加しています。詳しくはこちらの記事

P.S.アンケートとかXとかで、照明良かった〜って言ってくれる方が多くて大変嬉しいんだけど、だったら遠慮せず全然照明で呼んでくれてええねんで!本職の劇場の人が忙しいけど調整つけられる場合もあるし、なんやったら1st2ndでやってくれたら、お互い都合良いのよww 絶賛お仕事募集中です。ちなみに次の照明プランは、カヨコの大発明「INDEPENDENT:MZD」です!
posted by アイウチ at 14:29| Comment(0) | TrackBack(0) | works | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする